伊藤孝恵組織委員長(参議院議員/愛知県)は5日、国民民主党を代表し、参議院本会議で議題となった「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」に対する反対討論を行った。討論の全文は以下のとおり。

 国民民主党・新緑風会の伊藤孝恵です。私は会派を代表し、ただいま議題となりました法律案について、反対の立場から討論を行います。

 「少子化は、問題なのか?」
 勿論、問題であり、経済の衰退や地域の支え手、労働力不足を招き、社会保障を含めた、あらゆる既存システムの維持を困難にする。国力を低下させる、静かなる有事である。

 政治家が当たり前のように述べるこのような認識に、うんざりする人たちがいます。子を産み育てられる、産み育てたい、そんな風に思える環境を創ってこなかった政治家たちが今更、何を宣うか。
 国や社会のためでなく、自助を殊更振りかざさず、1人1人の選択、個々人の人生の営みとしての子育てに伴走する政策が、今求められています。
 少子化が、最大の病なのではありません。実質賃金の低下、非正規雇用の増加、長時間労働の容認、就職氷河期世代や奨学金世代の放置のみならず、性別役割分担意識の再生産と固定化、多様な性や家族の形を認めて来なかったことなど、他にもっと大きな病があって、少子化はその合併症です。

 1990年の1.57ショックから34年、1994年のエンゼルプランから30年、少子化担当大臣は26代目を数えるにも関わらず、我が国の少子化対策が空振りし続けているのは、政策ターゲットやペルソナ分析が曖昧で、KGI・KPIといった評価指標が設定されず、故に効果検証はなされず改善もなく、的外れな政策を量産し続けても、大臣の1人とて、責任を取らされることはない。その程度の危機感だったからに他なりません。

 我が国に“第三次ベビーブーム”が起こらなかったのは何故なのか?将来、子育てをしたいと思っている若者はどうして4割に留まるのか?国際意識調査で、自分の国は子どもを産み育てやすいと思うか?と問われ、とてもそう思うと答えたスウェーデン国民は80.4%もいたのに、日本はたったの4.4%。この76%の著しい差は一体何に因るものなのか?
 学ぶことなく、思考を深めず、本質的な課題を直視せず。EBPM(証拠に基づく政策立案)でないばかりか、説明も尽くさない、そんな政府の姿勢に賛同することは到底出来ません。以下、法案の足らざる点について具体的に申し上げます。

 反対の第一の理由は、少子化対策の要諦を理解されていない点です。
 政策ターゲットが子育て世帯及びこれから子育てし得る世代だとするならば、最重要視すべきは可処分所得です。
 実質賃金と出生数の相関係数は「0.93」、税や社会保険料など国民負担率と出生数の相関係数は「-0.95」、奨学金利用者と出生数の相関係数は「-0.90」つまり賃金を上げ、税負担を下げ、社会保険料負担を下げ、控除・給付・無償化などの公的支援を充実させる可処分所得対策こそが、少子化対策の要諦であるにも関わらず、政府は子ども・子育て支援金制度を新設し、社会保険料の増額に乗り出すといいます。
 労使折半の社会保険料が上がれば、労働者の可処分所得は減り、企業の賃上げ原資は削られ、給料を上げるディスインセンティブになります。控除を削るのも勿論、可処分所得を減らす悪手ですが、政府は現在、高校生の扶養控除縮小を検討しているといいます。
 少子化対策に逆行する制度を、少子化対策財源を確保する為に新設するとは。一体全体、何をしたいのか分かりません。
 ましてや支援金制度は、医療とは無関係な政策財源を、医療保険の枠組みの中に求めるものであり、社会保険の目的を逸脱しています。受益と負担の関係が成り立たない、保険料の目的外使用を容認するわけには参りません。

 反対の第二の理由は、国民への説明が欺瞞的である点です。
 支援金制度について政府は「実質的な負担は生じない」と繰り返し強弁してきました。しかしそれには大幅な賃上げと社会保障の歳出改革という2つの前提が必要です。今日現在、実質賃金は25か月連続でマイナスです。加えて、歳出改革によって社会保障負担「率」は下げる代わりに、医療費の窓口支払い「額」が増えることや、介護保険の利用「料」が増える可能性は否めません。つまり法の立て付け上は「実質的な負担が生じる」ことに何ら歯止めがかかっていないのです。

 また、支援金制度の負担額として当初示された450円は、実際に保険料を支払っている、所謂「被保険者」1人当たりの金額ではなく、「加入者全員」つまり支払い能力のない0歳児も入れた人数を分母において算出した金額であることが、後に判明しました。しかして、年収によっては毎月の負担額が1,500円を超える人もいることが、衆議院における法案審議の最終盤で明らかになりました。
 誰がどれだけ負担する制度なのか?社会全体で支え合う仕組みとして適切がどうかを判断するには基礎的なデータが必要です。それがあって初めて、国会において建設的な議論と裁定がなされ、歴史の検証に耐えうる議事録を残すことが出来ます。

 この際、政府が喧伝してきた「スウェーデン並」のトリックについても指摘致します。総理は施政方針演説などで、少子化対策が画期的に前進することの根拠として、家族関係支出がOECDトップの「スウェーデン並」に達する水準であるGDP比16%になることを挙げられました。しかし、この数字は国際社会で使用されている計算式に則ったものではなく、日本独自の計算式で取り繕ったものです。
 まず分母を“GDP”から“国民1人あたりのGDP”に変更し、分子は家族関係社会支出額の総額ではなく、日本の18歳以下人口、およそ2,000万人で割ったものに変えました。何故そんなことをする必要があるのか?
 2000年には世界2位だった、日本の1人あたりのGDPは今年38位に転落する見込みです。諸外国と比べて低い数字を分母に置き、子どもの数が減れば減るほど大きくなる数字を分子に置けば、世界における日本のポテンシャルが高見えする数字が出来上がります。まさにトリック。ハリボテの「スウェーデン並16%」です。

 不可解なのは、昨年2月時点では、総理は日本独自ではなく、国際社会で使用されている計算式による数字を国会答弁されておりました。議事録をそのまま読みます「家族関係社会支出は、2020年度の段階でGDP比2%を実現しています。そしてそれを更に倍増しようではないか、と言う事を申し上げている」
 家族政策先進国スウェーデンでもGDP比3.4%ですから、本当に倍増するのであれば、それはまさに異次元です。しかし2%を4%にするための財源、およそ10兆円を確保することは結局叶いませんでした。今回の加速化プラン3.6兆円ではGDP比2%が2.4%になるだけで「スウェーデン並」には遠く及びません。これが真実です。
 もしも、既に喧伝してしまった「スウェーデン並」「倍増」「異次元」それらの言葉の帳尻合わせのために、日本独自の計算式を編み出したのであれば言語道断。欺瞞的・詐欺的との誹りを免れません。

 反対の第三の理由として、時代認識、女性認識の更新の必要性についても指摘致します。
 5月17日の本会議において、岸田総理のみならず、加藤大臣までもが固定的な性別役割分担意識、所謂アンコンシャスバイアスについて「持たないように心がけています」と、御答弁されたことに驚きました。
 バイアスは脳の仕組みとして避けられないもので、誰の中にも必ず存在します。大切なのは、それ自体を悪だと決めず、自身の中にある偏見を自覚し、自認した上で、偏りを是正するための仕組みや制度を取り入れていくことです。
 心がけでなく声がけをして下さい。両立支援を議論する時、脳内で母親だけを主語にしていないか?地方の人口減少を考える際、若年女性人口の流出に真っ先に着目するのは正しいのか?児童手当加算や高等教育無償化が“3人目から”であることに、結局、多子礼賛かと現役世代や次世代は閉口していないのか?

 時代認識、女性認識をアップグレードすると共に、子どもの数や有無を分断要素とせず、親の収入で線引きをせず、生まれた子ども達全員を全力で育む政策を、政府には強く求めます。
 以上、本法律案に反対する主な理由を申し述べました。

 最後に。
 昨年、自死した小学生・中学生・高校生は513人。我が国の最大の課題は子どもが生まれない事ではありません。せっかく生まれた子ども達が、これから何にでもなれる子ども達が、自ら命を絶っていくことです。
 孤独・孤立の中から、抱きしめられたいと両手を伸ばす子どもがいる一方で、助けて欲しいと誰にもいえない子ども達もいます。我々はそこに分け入って手を繋がねばなりません。

 今回、自治体間格差が喧しいヤングケアラー支援に法律上、明確な根拠規定を設けると共に、児童福祉法でなく、子ども・若者育成支援推進法の改正によって、18歳未満と規定されがちだったヤングケアラーを18歳以上も支援対象として頂いたことに、心の底から感謝申し上げます。
 多くの心ある官僚、法制局の皆さん。そして報道で、研究で、提言で、子ども達に伴走し続けた大人たちの想いの総和であるこの法案が、今日も踏ん張る、日本中のヤングケアラーたちを照らす灯火とならんことを切に願い、私の討論を終わります。

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