憲法審査会発言要旨(2024年5月16日)
国民民主党・無所属クラブ 玉木雄一郎
憲法審査会も今国会、残り5回となった。今週からは「起草委員会」を設置すべきと先週提案したが、まだ設置されていない。もう論点は出尽くしているので、来週からは、ぜひ、全会派を入れた「起草委員会」を設置し、「緊急事態における国会機能維持を可能とする憲法改正」について条文案づくりに着手することを改めて提案する。
議論の分かれる論点についても、具体的な条文案をベースで議論した方が国民にも分かりやすいし、書いてもいないことで誤解や不安が膨らむことを防止できる。起草委員会で条文案を作成し、その上で、本審査会において「要綱形式」で議論することを提案する。
特に、選挙困難事態に、選挙期日を延期し、議員任期を延長することについてのルールと手続きを定めることには、多くの国民が理解を示してくれるはずだし、今後は、憲法改正の必要性について、国民の皆さんの理解を丁寧に得ていくことが必要だ。
その意味で、今日は、ネットなどで時々見かける、憲法99条の憲法尊重擁護義務、すなわち「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」とあることを理由に、国会議員が憲法改正を議論するのは憲法違反である、との言説が正しくないことを明確にしておきたい。
まず、法制局に確認したい。私たち国会議員が憲法改正に取り組むことは憲法99条の憲法尊重擁護義務に反するのか。また、国会議員たる内閣総理大臣が憲法改正について発言することは憲法99条の憲法尊重擁護義務に反するのか、過去の審査会での議論も踏まえて、お答えいただきたい。
(法制局長答弁)
赤嶺先生が2017年6月1日の憲法審査会で、参考人の宍戸先生及び小山先生に質問された時、両先生ともに憲法尊重擁護義務に反しないと明確に答弁をしている。私も全く問題ないと考える。ここは明確に確認しておきたい。
そもそも日本国憲法は96条で憲法改正手続を定めており、しかも、国会に独占的にな発議権を付与している。つまり、改正手続を定めた96条も含めて擁護する義務がかかっているし、国会が、必要に応じて憲法をアップデートし国民の権利保護に万全を期すことこそ「憲法保障」の一環になると考える。
最後に、前回議論があった、選挙期日の延期と議員任期の延長は「繰延投票で可能」との意見に改めて反論しておきたい。1950年の公選法制定後の国政選挙では、1965年と1974年の参議院通常選挙で繰延投票が行われている。いずれも集中豪雨のため、ごく一部の投票所において、1週間だけ投票が繰り延べられている。地方選挙の例を見ても1週間を超えて繰り延べられたことはない。
このように繰延投票は、その要件や実施例から言っても、ごく限られた投票所で投票が実施できない場合に1週間程度行われるものであって、70日を超えるような長期にわたって広範に行われることを想定していない。何より、仮に投票期日を長期に繰り延べたとしても、その間、議員任期が延長されるわけではなく、長期にわたって議員がいなくなる事態は避けられない。なお、法律の制定によって、国会議員の投票を繰り延べるとともに任期延長を行うことはできないことは、2011年に野田内閣で閣議決定されている。
やはり、「長期にわたって」「選挙の一体性が害されるほど広範に」選挙が困難な事態、すなわち「選挙困難事態」が発生した時に、国会機能を適切に維持するためには、憲法を改正して、選挙期日の延期とその間の議員任期の延長に関する規定を創設することが必要である。
最後に残るのは、選挙困難事態が発生するかどうかの判断であるが、それは正直、誰にも分からない。しかし、私たちは、東日本大震災の発災の44日後に予定していた市議会議員選挙などが実施できず、特例法を制定して議員任期を延長する経験をしている。同じことが国政選挙の任期満了時や解散時に発生することは十分想定し得る。議員任期が憲法で規定されている以上、そうした場合に備えた憲法改正は必要だ。
前回も述べたが、私たち国会議員は学者や評論家ではなく「立法者」であり、国民の生命や権利を守るため、その可能性がある限り、あるべき法制度を構築する責任を負っている。危機に備えるかどうかを決めるのは学者ではない。国民からの付託を受けた私たち国会議員が決めなければ答えは出ない。
改めてこのことを申し上げて、委員各位のご理解を求めます。
<参考>国民民主党「憲法改正に向けた論点整理」(2020年12月)
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