衆議院東京15区補欠選挙に立候補している「乙武ひろただ」候補は27日、最後の街頭演説を行った。乙武候補の演説全文は下記の通り。

【乙武ひろただ候補・演説全文】

 48年前のちょうど4月、私はこの世に生まれました。しかし、その体に両手両足はありませんでした。両親は、私が生まれてしばらくの間は、この子は一生寝たきりかもしれない、そう思っていたそうです。しかし、その後、自分ひとりでご飯を食べられるようになりました。自分ひとりで字を書くことができるようになりました。そして自分ひとりで歩くことができるようになりました。そうして育っていく私を見て両親は、この子は知的に障害があるわけでもないし、まわりの友だちとおしゃべりをするのが大好きだから、養護学校、いまでいう特別支援学校ではなくなんとか普通教育を受けさせられないだろうか、そう考えてくれたそうなんです。しかし、当時そんな例はほとんどありませんでした。これだけ重度の障害がある子はやはり養護学校で教育を受ける、ほとんどそういう時代だったんです。しかしそれでも、両親が熱意を持って地元の教育委員会に話をしてくれたおかげで私は、もしかしたら日本で初めてだったかもしれない、これだけ重度の障害がある子どもだったにも関わらず、地元の小学校で障害のない子どもたちと一緒に育ってくることができました。
 それから40年近くが経った2年前、私は政治の世界に初めてチャレンジしました。一昨年の7月、参院選です。さまざまな街角でこうして演説をさせていただきました。そのたびに「乙武さん、本当に立候補してくれてありがとう」、声を震わせて、涙ぐみながら私のこの短い腕を握ってくださる、そうした方が後を絶ちませんでした。「やっと心から応援できる立候補者が現れました。今まで選挙は行ってきたけど、消去法でしか入れられなかった。やっと心の底から、この人を国会に送り出したい、そう思える人が初めてできたんです。乙武さんありがとう」そんなことをどこの街角でも言われたんです。そのほとんどが、障害当事者の方、障害のあるお子さんを育てる親御さん、体の自由がきかなくなった自分の親御さんを介護している方、そしてLGBTQの当事者やそのご家族、そうした何かしらの生きづらさを抱えている、そうした方からの心からの叫びでした。「ああ立候補してよかったな、頑張らなきゃいけないな」そんな思いでいました。
 しかし、私は当選することができませんでした。そうした方々の思いを国会に届けることができなかったんです。本当に悔しかった。なぜか。こんな話をきいたんです。「乙武さん、助けてほしい。うちの子どもは確かに重い障害がある、けれど普通教育を受けさせたい。ただ、それには親が学校に付き添う、それが条件だと言われてしまうんです」びっくりしました。40年前と何一つ変わってなかったんです。私が普通教育を受けるときの条件も全く同じだったんです。たまたま私のうちは両親が二人ともいました。たまたま私のうちは母が専業主婦でした。だから母が朝8時から夕方4時までずっと学校に付き添ってくれることが物理的に可能でした。だから私は普通教育を受けることができたんです。しかし今の時代、一人親で育てている方もたくさんいる、共働きの方もたくさんいる、こういう場合どうなるんでしょう。お子さん、普通教育を受けることができないんです。40年経ってるんですよ。40年。なのに何も変わってない。だから私は変えたかった。なのに私は変えられなかった。それが悔しくて、申し訳なくて、一昨年の選挙から一日たりともその悔しさ、申し訳なさを忘れたことはありません。いつかまたチャレンジしなければ、そんなことを思ってこの2年間過ごしてきました。私に思いを託してくださるのは、障害のある方だけではありません。2年前のその選挙、決起集会で勇気を持ってマイクを握ってくれたのは、LGBTQの当事者の方でした。その方はそれまでNPOで性的少数者の啓蒙活動を続けていた方でした。しかし、その前の年、そのNPOを退職したんだそうです。なぜか。もう疲れてしまった、そう言っていました。「どうして、制度の壁で自分たちが苦しい思いをしている、それを解決するのに自分たちだけが声をあげ続けなきゃいかないんだろう、もう疲れてしまったんです。でも、乙武さんがこうして声をあげてくれている。確かに乙武さんは障害の当事者ではあるけれど、別にLGBTQの当事者ではない。なのに代わりに声をあげてくれている、それが嬉しかったんです。やっと、やっと当事者じゃない人間が声をあげてくれるようになった、やっと自分たちの思いを託してくれる人が出てきた。だから僕は乙武さんを応援しているんです」そんなことを言ってくれたんです。そんな彼の思いも私は国会に届けられなかった。今度こそ届けたいんです。
 国民民主党のキャッチフレーズでもあります「対決より解決」、確かに今の国会に目を向けると、右だ左だ、保守だリベラルだ、与党だ野党だ、そんな対決ばっかり。もううんざりしてるんです、そんなことには。解決したいんですよ。困ってる人がたくさんいる、その声がたくさん私のもとに届く、それを私は解決していきたい。どうか、どうかその解決するための力を私にくださいませんでしょうか。
 選挙になるとよく言われます。「どうせ誰が選ばれたって一緒でしょ」「誰が選ばれたって何も変わらないよ」。もうそうやって逃げるのやめましょうよ。変えられるよ。私は私にしかできないことがあると思ってる。他の政治家にはない、私にしかない視点があると思っている。私にしかお示しできない政策があると思っている。だからここにいます。だから勝負しています。だからいくら批判を浴びてもひるまず、くじけず、ここにいます。私にしかできない仕事、やらせてください。
 そしてもう一つ、今回の選挙戦を通じて私には成し遂げたいことができました。それは公職選挙法の改正です。今回、玉木さんも小池さんもおっしゃっていました、本当に度重なる選挙妨害、私は悔しかった。みなさんに申し訳なかった。それは邪魔をされて言いたいことが言えなくて、その悔しさももちろんありました。でもそうじゃなくて、民主主義が揺るがされてるから、みなさんの聞く権利が奪われてるから。先ほど小池さんもおっしゃいました、選挙って民主主義の根幹でしょ。みなさんがそれぞれの候補者、私たちだけじゃない、他の陣営、他の候補者の言っていることにも耳を傾けていただき、この人の言うことも一理あるな、この人の言うこともその通りかもしれないな、いろいろ比較検討していただいたうえでみなさんの貴重な一票を誰かに託す、それが選挙です。それが民主主義なんです。でも、それがこの選挙、できていないんですよ。悔しくないですか。悲しくないですか。みなさんもっと怒りましょうよ。でも、今の法律だと、あれ取り締まれないんですって。ひとたび彼らも候補者の一人であり、一陣営と認められてしまうと、警察の目の前で、スピーカーで大音量でこちらに向けて罵詈雑言を浴びせたり、みなさんに向けて大音量で音を出して邪魔をしても、そんなことをしても逮捕されないんですって。法律違反にならないんですって。変えませんか。そんな状況を変えませんか。この後、6月から7月にかけて、東京都議の補選も行われます。7月には東京都知事選も行われます。もしかしたら、解散と岸田さんが言ったら、また衆院選があるかもしれません。すぐに法改正しないと、また同じことが起こるんですよ。またみなさんの、主張をきく、その権利が奪われてしまうんです。みなさん、一緒に変えていきませんか。私は一緒にみなさんと戦いたい。みなさんと一緒に民主主義を守りたい。選挙をきちんとやりたいんです。
 どうせ変わらない、何も変えられない、そんな諦めの言葉を言うのは私は嫌なんです。私は諦めたくない。私は政治を諦めない。そして、みなさんにも政治を諦めてほしくないんです。一緒に変えていきませんか。一緒に、ひとりひとり困っている人のために、そして民主主義のために、私はみなさんと一緒に戦いたい。そのためにもどうか、私、乙武ひろただを国会に送り出してほしいんです。戦うためのその立場を、その権利を与えてほしいんです。最終日、あと数時間、あと一歩のところまで迫ってきました。どんなにこの場で私が声を尽くしても、どんなに大久保さん、玉木さん、森村さん、小池さん、熱い熱いメッセージを送ってくださっても、この車上にいる私たちにできることはありません。私を国会に送り出すことができるのは、私に力を与えることができるのは、みなさんお一人お一人しかいないんです。どうか、どうかみなさんのお力、どうかみなさんの一票を私、乙武ひろただに託してください。今度こそ国会に行きたい。今度こそ仕事がしたい。私にしかできない仕事がある。私のためじゃないんです。私に思いを託してくださってるたくさんの方々のために仕事がしたいんです。みなさん、勝たせてください。この乙武ひろただを勝たせてください。みなさんのお力でどうか勝たせてください。ありがとうございました。

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