川合孝典幹事長代行(参議院議員/全国比例)は14日、国民民主党を代表し、参議院本会議で議題となった「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案」に対する賛成討論を行った。討論の全文は以下のとおり。

 国民民主党・新緑風会の川合孝典です。会派を代表して、本法律案に賛成の立場から討論します。

1.永住資格の取り消し規定について
 まず永住資格の取り消し規定について指摘します。改正法案に「故意に公租公課の支払いをしないこと」を理由とした永住資格の取り消し規定が加わったことで、大きな議論が巻き起こりました。
 実際、うっかり税金や保険料を滞納しただけで、永住資格を取り消すことが出来る、と読み取れる条文であり、永住資格者が不安と懸念を持たれるのは当然のことです。永住資格の取得に10年もの期間を要することを踏まえると著しく相当性を欠いている、との指摘は的を射ていますし、そもそも長年に亘り、日本に住み・社会に貢献して来られた方々に対して配慮を欠いている、と言わざるを得ません。

 法案審議でも、「故意」という言葉の解釈を巡って質疑が行われましたが、解釈上、故意という言葉には、いくつかの異なる意味があります。
 刑法三十八条に規定する「故意」が、「罪を犯す」意思、つまり罪となる事実を認識した上でその実現を意図又は容認することを意味している一方で、民法七百九条の「故意」は、「自己の行為から一定の結果が生じることを知りながらあえてその行為を成すこと」を意味し、過失であっても不法行為の成立要件となります。
 つまり改正条文上の「故意」が民法規定に基づいて解釈されると、過失責任をも問われることとなり、そこに恣意的判断の余地が生じることとなります。
 従って法案審議では、入管法上の「故意」は、民法上の「故意」ではない、ことの確認を行った上で、いくつかの明確な答弁を得ています。まず過失や支払い能力の欠如による公租公課の未払いは、一切永住資格取り消しの対象とはならないこと。特別永住資格は、日韓法的地位協定と入管特例法に基づき付与されたものであり、今次法改正の対象からは除外されること。過失による交通違反など根拠法令の異なる事案はその対象から除外されること、などを法務大臣答弁によって確認しています。
 今後、法施行までの間に答弁内容に基づき、法律条文の恣意的解釈が生じないよう詳細な運用指針やガイドラインの整備を政府には求めます。

2.景気変動リスクを踏まえた国内労働市場との調整についての認識
 外国人労働者の受け入れ拡大にあたっては、事前に景気変動リスクを織り込んで国内労働市場との調整を行う必要があります。今後、景気が悪化した際、日本人労働者との雇用の奪い合いが生じることも想定されます。実際に欧米諸国では、景気後退時に移民排斥運動が生じている事例も踏まえると、中長期的な労働力需給の観点から国内の産業別労働市場との調整が極めて重要であり、そのためには技能実習制度における分野別協議会や地域協議会の機能強化と、意思決定プロセスの透明化が極めて重要です。

3.特定技能産業分野の選定プロセスの透明化についての認識
 また、特定技能産業分野の選定プロセスの透明化も必要です。これまでの特定技能制度では、今後の国内労働市場に大きな影響をもたらすものであるにも関わらず、特定技能対象分野の選定プロセスが透明性に欠けていました。今回の法改正によって新たに特定技能産業分野の選定を行うことになりますが、特定の産業が直面している労働力不足への場当たり的な対策としてではなく、有識者や労使等で構成される会議体を設置し、公開の場で議論を行うこと等を通じて、選定プロセスを透明化する必要があることを指摘しておきます。

4.労働基準関係法令違反解消のための具体的な対策
 技能実習実施者による労働基準関係法令違反を踏まえた対処も急務です。これまでも原則として労働基準法、最低賃金法等の労働基準関係法令は適用されることになっていましたが、実習実施者による労働基準関係法令違反はあとを絶ちませんでした。
 今回の法案審議を通じて、法務大臣から「国籍を問わず、同一労働・同一賃金を遵守させる」旨の明確な答弁はありましたが、その具体的な手法は今後の検討に委ねられています。
従って特に労働基準関係法令違反の多い、安全基準違反、長時間労働、割増賃金の未払い、などに焦点を当てた具体的な法令違反対策を法施行までの間に講じることを求めます。

5.一定の日本語能力を受け入れの要件にすることについての認識
 日本語教育のあり方についても今後速やかに検討の必要があります。言語教育の不足は、雇用の門戸を狭くします。言葉の壁のある在留外国人は、労働市場から排除されがちとなり、低賃金・不安定な就労を強いられることで新たな貧困層を形成することとなります。
 貧困に陥った在留外国人は、必然的に社会保障制度への依存度を高めることとなりますが、これが自国民であれば、当然の権利とみなされても、外国人の場合は、自国民が支払う税金によって生活する寄生者とみなされ、排除の対象となることは西欧諸国の事例からも明らかです。こうした過去の苦い経験から、西欧の移民受け入れ国の対移民言語政策は、既に1990年代以降、受け入れ国の言語の習得を求めようとする方向に明確にシフトしています。
 例えばオランダでは、既に国内に定住している移民だけでなく、家族呼び寄せによって入国しようとする移民にまで、事前に母国でオランダ語のテストに合格することを義務付けています。また永住権の取得には、より高いレベルのテストへの合格が条件とされており、社会保障の負担となる可能性のある移民の入国拒否を意図した言語政策を採用しています。
 またドイツやフランスでも教育プログラムの受講を義務付けた上で、試験の難易度に差はあるものの、制限期間内に言語試験に合格して言語を習得できるだけの素養のある移民のみが、永住権を取得できることとなっています。
 こうした言語政策は、いずれも労働力不足対策からではなく、雇用機会の拡大を通じて、移民が福祉制度に依存することなく、自立した生活を促すと共に、言葉の壁をなくすことを通じて、地域社会との共生を図ることを目的としています。
 日本では、こうした観点からの議論が未だ充分に行われていません。今後、労働移民に等しい外国人労働者を大量受け入れが見通される中、社会の安定を図るためには、国費を投じてでも一定水準まで日本語力を高める取り組みを推進する必要があります。政府には、中長期的な視点から速やかに日本語教育のあり方を検討することを求めます。

6.1年を超えた転籍制限と労働基準関係法令との整合性
 1年を超える転籍制限について指摘します。
 転籍制限について、法文上は「当分の間、受入れ対象分野ごとに1年から2年までの範囲内で設定する」と極めて曖昧な表現となっていたことで、大きな論点のひとつとなりましたが、法案審議の中で、「育成就労実施者による雇用契約違反が明らかになった場合は、例外なく転籍要件を満たす」旨の法務大臣の答弁がありました。これにより、育成就労実施者への配慮を理由とした転籍制限の懸念は軽減されましたが、1年を超えての拘束が労働基準関係法令との整合性を欠いている事実に変わりはありません。そもそも、外国人労働者が「働き続けたい」と思える雇用・労働環境を整えることが、育成就労実施者には求められており、その実現に向けて関係省庁は取り組みを進める必要があることを指摘しておきます。

7.悪質な送出機関規制および借金問題の抜本解決に向けた取り組み姿勢
 最後に悪質な送出し機関の規制の在り方について指摘します。
 技能実習生が母国の送出機関に多額の借金をしている問題について、これまで日本政府の対応は、せいぜい悪質ブローカーからの受入れを停止する程度に留まっています。
 今回、最終報告書や政府方針において、監理団体等がより質の高い送出機関を選択できるように手数料等の情報公開を求めるとされているものの、手数料等そのものを抜本的に見直す取組みにはなっていません。送り出し機関が実習生から徴収できる手数料の上限が定められているにも関わらず、定められた上限額を守らず、様々な名目を付けて実習生に負担を上乗せしている送り出し機関が数多く見られます。
 こうした送り出し機関からの受け入れを一切排除する等、厳格な二国間協定を締結することを政府には求めて討論とします。

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